『桐島部活やめるってよ』はこんな人におすすめ
高校時代の懐かしさに触れたい人
「桐島、部活やめるってよ」では高校2年生の光と影が描かれています。
高校時代は人生全体からみればわずかな期間ですが、仲間と一日中一緒に過ごす経験は濃密なものです。
その中で生まれる悩みや輝きが、この小説ではリアルに描かれています。
例えば特徴的な点として、スクールカースト(人気のある生徒とそうでない生徒の間に身分制のような壁が生まれること)にふれています。
カーストが「下」で悩むことはよく聞きますが、「上」の生徒にも悩みがあることが、この作品では描かれています。
高校生の頃に言葉にしづらい悩みを抱えていた人
高校生活を思い出し、そのリアルな学校生活の描写に「こういうことってあったな」や「自分だけじゃないんだ」と共感できるでしょう。
言葉にできない思いをこの小説が代わりに描いてくれている、そう感じられるかもしれません。
高校を卒業してもうかなり経つのですが、この作品を読んでいて当時のことを色々と思い出さずにはいられませんでした。
同じ制服を着ているのに、容姿や着こなしで全然違って見えること。
体育の球技で、上手い人の邪魔にならないよう気配を消していたのに、パスが回ってきてしまった瞬間の焦り。
そんな高校生の生活がありありと描かれていることに驚き、また懐かしく感じました。著者の朝井リョウがこの小説を発表したのは、大学1年の時。
昔も今も変わらない高校生ならではのリアルがあふれています。
『桐島部活やめるってよ』を読むとこんな気持ちになれる
スクールカーストに葛藤を感じる
この物語を読むことで、自分とは違う立場の人に対する見方が変わるきっかけになるかもしれません。
作中には様々なタイプの生徒たちが登場します。
運動が得意でルックスのいい、いわゆるスクールカーストの「上」のグループの生徒。
その一方でちょっとパッとしないスクールカースト「下」の生徒たちもいます。
部活に熱中する生徒もいれば、目標がなくて悩む生徒も。
簡単にすてきな恋人ができる子もいれば、好きな人に話しかけることすらできない子もいるのです。
しかし、学校の中で一見パッとしないような子でも輝ける瞬間はあるのだ、とこの小説は教えてくれます。
高校生たちの悩みや葛藤が分かる
その一方で、人気があってスクールカーストが「上」の生徒たちでも、毎日ただ楽しく生きているわけではなく、なにかしらの悩みを抱えていることがわかります。
また様々なタイプの生徒たちを見ているうちに、人生の充実感とは何か、ということをあらためて考えさせられます。
人と比べず、自分の本当にやりたいことを見つけて情熱的に取り組んでいく時、本当の幸せも自信も生まれるのではないかと。
登場人物がそれぞれに悩みを抱えながらも懸命に立ち向かおうとする姿はとてもまぶしくうつります。
その姿に、青春時代の自分と照らし合わせて懐かしく思ったり、もしかすると当時のつらかった思い出が癒されたと感じたりするかもしれません。
登場人物は、それぞれタイプは違っても基本的に心のまっすぐな生徒たちばかり。
最後にはすべての生徒に少しずつ光が差し、読んだ後はさっぱりと爽快感のある物語です。
『桐島部活やめるってよ』(ジャンル、出版社、著者情報、出版年)
- ジャンル:小説
- 出版社:集英社
- 著者:朝井リョウ 1989年生まれ。早稲田大学在学中の2009年に本作で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2013年「何者」で直木賞受賞。
- 出版年:2010
『桐島部活やめるってよ』のあらすじ
この作品は地方の高校で生活する17歳の生徒たちを中心とした物語です。
バレー部のキャプテンで人気者の桐島と、同級生5人の物語がからみあって展開していきます。
人気者の桐島と友人たち
ある日、桐島の友人である宏樹は「桐島が部活をやめるらしい」という噂を聞きます。
いつも桐島と下校している宏樹は、放課後に仲間と共に桐島から話を聞こうとします。
ところがその日から桐島は姿を現さず、何を考えているのか直接聞けないままの宏樹は苛立ちを覚えるのでした。
一方、桐島と同じバレー部に所属する風助は、桐島が部活をやめることでレギュラーの地位が回ってきます。
それを喜んでいいのか悩む風助。桐島抜きのチームで練習をしていく日々のなかで桐島との思い出がよぎります
。二人でプレイについて語り合ったこと、そしてチームを強くしたい思いが空回りし桐島が次第に孤立していったこと。
桐島がいないままの日々は流れ、やがて桐島不在のまま対外試合が始まりますが・・・。
ここまでは、「桐島が部活をやめた」ことで、学校の中に広がる波紋が友人の視点で描かれます。
「上」の生徒と「下」の生徒
次に場面はスクールカースト「下」に属する亜矢の視点に切り替わります。
吹奏楽部で部長を務める亜矢は、コンクールに向けて部員をまとめようと活躍していました。
部活に情熱を燃やし充実した学生生活を送る亜矢ですが、同時に悩みも抱えています。
亜矢はスクールカースト「上」の竜汰に恋をしており、「下」の自分には手が届かないと思い込んでいるのでした。
亜矢は放課後部室の窓から、校庭に向かってサックスを吹くのが習慣でした。
そこでは毎日、竜汰が宏樹らと一緒に桐島を待ちながらバスケットをしていたからです。
しかし桐島が部活をやめて、時間をつぶさなくてよくなった竜汰。亜矢はその姿を見ることができなくなってしまったのでした。
映画部の部長涼也もまた、自分のことを「下」だと思っている一人です。
ある日、映画部で作った作品が高校生映画コンクールで審査員特別賞を受賞し、全校集会で紹介されます。
自分に自信のない涼也は思いがけず目立ってしまったことで、居心地の悪い思いをします。
それでも、仲間と映画を作っていく中で自信を深め、ある決意を固めるのでした。
亜矢と涼也、それぞれの物語では、スクールカーストの「下」に位置する生徒の複雑な思いが展開します。
誰にも言えない悩みを抱えて
一方スクールカースト「上」に属している生徒たちは、大きな声を出して思ったことをなんでも自由に口にしていい雰囲気があります。
ソフトボール部の実果も、その一人でした。魅力的な外見でイケメンの彼氏もいる実果はいつも自信たっぷりに見えます。
しかし、家庭内のことで誰にも言えない悩みを抱えていました。
そして、物語はもう一度宏樹の視点で語られて終わりを迎えます。宏樹もまた「上」の生徒でスポーツ万能でしたが、所属している野球部が弱いことに失望しサボり続けていました。
目標が見つからずもやもやした気持ちを抱えている宏樹ですが、「下」である映画部の涼也とかかわる中で一つの答えにたどり着きます。
そして、宏樹の心の中には桐島をはげます言葉もうかんでくるのでした。
『桐島部活やめるってよ』のamazon評、口コミを解説
Amazonでの評価は星5つ中の3.7。60パーセント以上の人が星4つ以上をつけています。
良い評価としては「自分の中のもどかしさと格闘しながら生きている姿がまばゆい」
「色々な視点から高校生の心情に迫っていて面白い」といったものがありました。
この作品では、スクールカーストの異なる生徒たちにスポットライトをあてて、それぞれの葛藤を丁寧に描いているところに面白さがあるといえます。
その一方で、「ハラハラドキドキがなくさらっとしている」と感じた方もいたようです。
青春を描いた小説というと、どうしてもインパクトの強い展開を想像してしまいがちです。
そういった期待があると、この作品に物足りなさを感じる方もいるかもしれません。
しかし、ここで描かれているのは、本当にリアルな高校生の生活です。
そして、その中で生まれる悩みに立ち向かっていく姿が魅力といえます。
何か刺激的な事件が起こるわけではなく、大人になろうとする青年たちがどんな想いをかかえているのか、ゆっくりと一人一人の物語を追っていってほしいと思います。
彼らの心を想像しながら読んでいくと、しみじみとした味わいが感じられるでしょう。
実はこの小説には、最後まで桐島について隠されたままのことがあります。
それを不満に思った方もいるようです。
しかし、これは作者が意図的に作った仕掛けと言ってよいでしょう。
周囲の人々の言うことをヒントに、桐島の気持ちを想像するところに面白さがあるのです。
『桐島部活やめるってよ』のオーディオブック、電子書籍の有無、映画化有無、漫画版有無など
- オーディオブック…あり
- 電子書籍…Kindle版あり
- 映画化…あり
- 漫画版…あり