『神去なあなあ日常』はこんなひとにおすすめ
山村での暮らしを味わってみたい人へ
横浜育ちの18歳の青年が三重県の山奥にある神去村で生活を始める「神去なあなあ日常(かむさりなあなあにちじょう)」は、山村ならでは人情と自然に囲まれた生活が楽しく描かれています。
春、桜の大木の下で食べ物を持ち寄って宴会をしたり、夏の渓谷で水遊びをしうなぎをとったり。
季節ごとの自然の美しさと、それを共に楽しむ村の人々。
人と人の距離が近く、困ったことがあると皆で協力して解決します。
この小説の題名にある「なあなあ」は、神去村の人々の口癖から来ています。
これは「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」といった意味なのだそう。
そんなのんびりとした生活を、かつて田舎に住んでいた人はなつかしく思い出すでしょうし、そういった場所で生活したことのない人は新鮮に感じることでしょう。
若者の成長物語を読みたい人へ
この本を読むと、最初は頼りなかった主人公がだんだんと成長していく姿に元気をもらえます。
蛇やダニ、ヒルに襲われることもある仕事は体力勝負で、当然ながら辛く「なあなあ」では済まされない危険もあります。
しかし、その困難を乗り越えることでたくましくなっていくのです。
つらくて逃げ出したくなることもありますが、仕事仲間に色々と教えられたり、村の人達に支えられたりする中で、主人公はだんだんと自信をつけていきます。
仕事や環境の変化に悩んだり迷ったりすることは多くの人が体験することですが、主人公がそれを乗り越えていく姿は爽快です。
『神去なあなあ日常』を読むとどんな気分になる?何が学べる?
人のあたたかさをあらためて認識できる
主人公である平野勇気(ひらのゆうき)を取り巻く人々はみな心が温かく、何とかして勇気を一人前に育てたいという思いにあふれています。
林業の仕事を教える先輩「ヨキ」は、マッチョで嘘つきでちょっと癖のある人物ですが、勇気を上手にほめて育てようとします。
また、ヨキの妻や、林業株式会社の社長一家なども家族のように勇気を受け入れてくれます。
「神去なあなあ日常」は、そんな山村の魅力に取りつかれていく若者の成長物語。
山あり谷ありの毎日をすごす主人公を「頑張れ!」と応援したい気持ちでいっぱいになりました。
ちょっと頼りなく情けないところがありマッチョな世界に一歩引きながらも、結局はどんどん巻き込まれていきます。
特に後半は見もの。
「なあなあ」ではなく、スピード感のあるストーリーに引き込まれ、あっという間に読み終わってしまいました。
林業のかっこよさが学べる
この本を読んで一番おどろいたのは、林業という仕事の「かっこよさ」です。
杉の木に、簡単な道具を使ってするすると登り、枝打ち(下枝や枯れ枝を切って木の手入れをすること)をするのです。
山火事の時には延焼を防ぐため、迷わず水をかぶって木を切り倒していきます。
幹回りが9メートルもある木を数人で協力して切り倒し、クレーンを使わず手作業で山から降ろしていくシーンには勇ましさを感じずにはいられません。
『神去なあなあ日常』の奥付き情報
- ジャンル:小説
- (本の奥付より)
- 出版社:徳間書店
- 著者:三浦しをん 1976年東京都出身。2006年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。
- 出版年:2009年
『神去なあなあ日常』のあらすじ、要約
高校卒業式の当日に
高校卒業を目前に控えた主人公平野勇気は、特にやりたいこともなく、就職せず適当にフリーターで食べていこう、と思っていました。
しかし卒業式の日、勇気は担任の先生に「就職先を決めてきてやったぞ」と言われます。
行先は三重県の山奥にある神去村。林業の研修生として働くことがいつのまにか決まっており、勇気の両親もそのことを承知で家を出されてしまいます。
携帯の電波が届かない村
勇気が一人でたどり着いた神去村は、ローカル線の終点にある山に囲まれた小さな村。
そこではほとんどの場所で携帯の電波が届きません。
若者が遊ぶところはなく、コンビニすらない不便なところです。
林業の仕事に就くなどとは考えたこともなかった勇気は何度か村からの脱出を試みますが、すぐに村人に見つかってしまいます。
人手の足りないこの村では、せっかく来てくれた勇気を手放したくないのです。
不満をもちながらも勇気は30歳くらいのマッチョな同僚飯田与喜(いいだよき)の家に住み込み、この村の「中村林業株式会社」で働き始めるのでした。
神去村の生活にも楽しみが
中村林業で山林の世話をする仕事を始めた勇気は、失敗もあり気持ちがくじけてしまいます。
しかし、ある日村にある杉の木の手入れを任されたことがきっかけで林業の面白さにめざめます。
高い木に登ることもチェンソーで無駄な枝を落とすことも初めての体験でしたが、慣れてくると面白く、ほめてもらえてうれしくなります。
ある日勇気は木の上から見える家に、「気まぐれな猫」のような表情の美しい女性がいるのを発見します。
彼女の名前は直紀(なおき)。大きなバイクに乗ったボーイッシュな女性です。勇気なんとかして直紀と仲良くなりたいと思います。
ところが他に好きな人がいるらしい直紀はいつもそっけなく、勇気をよそ者扱いし続けます。
それでも勇気はあきらめず声をかけ続け、次第に勇気が村に馴染み活躍するようになると、直紀も徐々に勇気を「村の男」として認めるようになります。
勇気は迷いつつもだんだんと村の生活に喜びを見つけるようになります。
神去村の神様と48年ぶりの祭り
ある日、村で子供が行方不明になります。あちこち探しても見つからない中、「神隠しに遭うた」と厳かに告げる長老。
そんなことがあるものかと驚く勇気を横目に、村の人々はなんの抵抗もなく受けとめて、神去山の神様のところに子どもを迎えに行くのでした。
勇気は、山では不思議なことがあるのかもしれないと思い始めます。
やがて勇気が村の生活や仕事にも慣れ始めた秋のこと。48年ぶりという「祭り」に勇気を参加させるかどうかで、村の人々の意見が分かれます。
村の一員として迎え入れられたと思っていた勇気ですが、よそものを入れることはできないという意見に切ない思いをします。
しかし、ある事件を機に勇気は祭りへの参加を認められます。その事件とは、そして48年ぶりの祭りとは?思いもかけないスリリングな経験が勇気を待っていたのでした。
『神去なあなあ日常』のamazon口コミ。感想を解説
Amazonでのカスタマレビューでは星5つ中の4.4。8割以上の人が星4つをつけています。
自然の力強さや、偉大さ気高さ恐さも含め、そしてその中で生きていく人間賛歌が、心のなかにありありとイメージとして湧きあがってくる
「話にリズムがあって、アップテンポに乗せられて、いつの間にか読み終わった」
といったレビューが見られました。
一方
「現実はかなり退屈な時間が多いと思うんだけど、田舎のマイナス面はほとんど描かれていない」
「登場人物は基本的に良い人ばかり」
といった声もありました。
確かに村のネガティブな側面についてはあまりくわしく描かれていません。
しかし、勇気が横浜よりもこの村での生活を選んだ理由はうなずけます。
村では「自分が必要とされている」という実感があるのです。
また、著者の三浦しをん氏は、神去村のモデルとなった三重県美杉村に祖父母の家があり、山村での生活についてしっかりした取材の元で書かれているようです。
田舎といえばそのネガティブな面が強調されがちですが、その温かさや豊かさ、知られざる素敵な部分をこの小説で味わってほしいと思いました。
『神去なあなあ日常』のオーディオブック、電子書籍、映画化、漫画版有無など
- オーディオブック…audiobook.jpあり
- 電子書籍…Kindle版あり
- 映画化…あり
- 漫画版…なし