書評

『火花』の書評。あらすじ、要約も

又吉直樹氏の著書「火花」の書評を紹介します。

あらすじと要約も。

 

『火花』の書評:こんなひとにおすすめ

夢を追う若者たちの輝きを見たい人へ

著者の又吉直樹(またよしなおき)氏は、20年にわたってお笑い芸人として活動しています。

その経験を生かして、お笑いの世界で夢を追う若者の姿をリアルに描いたのがこの「火花」です。

主人公:徳永(とくなが)とその先輩:神谷(かみや)は20代のお笑い芸人。

まだ無名ですが、お笑いの世界でのし上がりたいという夢を持っています。

それぞれバイトをしながら、ネタを作ってはオーディションを受け続ける努力の毎日を過ごします。

ステージに立ちお客に「ウケる」時のときめき。この小説では夢を追う青春の「火花」のような輝きが描かれます。

お笑いを追求するあまり、芸人同士で日常会話の中でさえもボケと突っ込みを絶やさない二人の姿は面白い一方で、「ウケる」ことへの切実さを感じさせます。

自分より才能があったり先に売れていく仲間への嫉妬、世間に認められないことへの焦り。

もがくように乗り越え、たとえ売れなくても最後まで新しい笑いを追求し続ける姿がまぶしい物語です。

お笑い芸人のリアルを知りたい人へ

コントを作るのは、人を笑わせるために話をねりあげる知的な作業です。

でも、「あの人は阿呆なふりしてるけどほんまは賢いんや、なんてお客さんは知らんでいいこと」と神谷は言います。

あくまで道化の立場を貫き続ける姿に、お笑い芸人としての苦労を感じずにはいられません。

また、お笑いは「常識からはずれたもの」から生まれます。

常識では口にできないこと、間違ったこと、行きすぎたことを次々に繰り出されると人はつい笑ってしまうもの。そのため徳永も神谷も常識と違う、新しいものを追い求めます。

しかし、常識からずれすぎると「笑えないただの危ない人」になりかねません。

斬新な笑いと常識外れの間で葛藤し続ける姿に、お笑い芸人のリアルな努力を見ることができるでしょう。

 

『火花』の書評:読むとどんな気分になる?

先輩・後輩という身近な人間関係の葛藤が切ない

この小説では、主人公:徳永と4歳年上の先輩:神谷の10年間の交流が描かれます。

作中ではこの2人のあいだのさまざまな苦悩や葛藤が描かれますが、最後には吹っ切れたような明るさが残ります。

徳永は先輩である神谷の才能に惚れ込み、また心の支えにします。

でも、先輩は同時にライバルでもあり、時には乗り越えていかなくてはならない存在です。

一方神谷は、後輩の前で見栄をはったり気負いすぎて失敗を繰り返します。このような関係は芸人に限らず、学校や職場の先輩・後輩、時には親子の間でも見られるでしょう。

徳永と神谷の姿をみていると、そんな切なさや葛藤を思い起こさずにはいられませんでした。

目標を追い続けることの尊さに勇気をもらえる

お笑い芸人の世界には落語のような決まった噺(はなし)や師匠-弟子の関係がありません。

自分の勘と知恵だけを頼りにお笑いを追求していくしかないのです。

もちろん、笑ってもらえるかはお客さん次第。

私たちが普段楽しんでいるお笑いの陰に、こんな努力の姿があったのか、と気づかされました。

この小説を読み終えた時には、ほろ苦い思いが残り、彼らに幸せになってほしいと願わずにはいられませんでした。

たぶん、彼らに何が幸せかと聞けば、安定した生活よりも「人にウケること」と答えるでしょう。

普通の幸せからは遠くても前を向き続ける二人は明るく、何があっても「生きている限りバッドエンドはない」と言い切る徳永に勇気をもらえる物語でした。

 

『火花』の奥付き情報

  • ジャンル:小説 (本の奥付より)
  • 出版社:文藝春秋
  • 著者:又吉直樹 1980年生まれ。大阪府出身。吉本興行所属のお笑い芸人。
    本作で芥川賞を受賞。著書に、小説「劇場」、せきしろとの共著で自由律俳句集「カキフライが無いなら来なかった」などがある。
  • 出版年:2015

 

『火花』あらすじ、要約

徳永と神谷の出会い

徳永は20歳のお笑い芸人。相方の山下とともに「スパークス」というコンビ名で活動していました。

物語は、駆け出しのスパークスが熱海の花火大会の前座として呼ばれ、コントを観客に見せている場面から始まります。

主催者側の段取りが悪く、太鼓や花火の打ち上げとコントが重なってしまうスパークス。観客にほとんど話を聞いてもらえないまま、落胆した気持ちでコントを終えます。

その時徳永は「あほんだら」というコンビの一人神谷と出逢います。

スパークスの後で舞台に飛び出していくとき、神谷は徳永に「仇とったるわ」と叫んで人を小ばかにしたようなコントを始めます。

反感を買いそうな尖ったコントにハラハラしながらも、徳永は神谷の常識を覆すようなその才能に心を奪われます。

その夜一緒に飲みに行った徳永は酔った勢いで神谷に「弟子にしてください」と頼みこみます。

すると神谷は「俺の伝記を書いてくれ」ということを条件に、徳永を弟子にするのでした。

 

先輩神谷と苦楽を共に

徳永が所属していたのは小さなタレント事務所で、これまで先輩というものがいませんでした。

孤独だった徳永は、毎日のように連絡をよこし、お笑いについて熱く語る神谷を心の支えにします。

早く喋れないことに悩む徳永に「そこから人と違う表現ができるはず」と励ましてくれる神谷。

一緒に飲むときには、自分がどんなに貧しくても、後輩である徳永にはお金を出させません。

徳永はなかなか売れない不安な毎日を送ります。しかし、神谷と話すことで鼓舞され、自分の芸をみなおしたり、心を癒されたりします。

そして同時に日常生活でも芸人としての誇りをもち、どんな時でも直ぐにネタを繰り出してくる神谷の才能に嫉妬を抱きはじめます。

非常識でその日暮らしのだらしない生活をしているのに何故か女性にモテる神谷は、真樹(まき)さんという女性の家に転がり込んで生活を始めます。

真樹さんは夜の仕事をしながら神谷を支え、徳永にも優しくしてくれるのでした。

 

先輩を乗り越えて

やがてスパークスは少しずつ売れ始め、テレビにも出られるようになります。

一方神谷は日の目を見ず、いつまでも小さな劇場での仕事どまり。

神谷は「人と違ったこと」を追い求めるあまり、コントの内容が客や事務所の要求とずれてしまっていたのです。

悪いことは重なるもので、素行の悪さが話題になり、ついには真樹さんに愛想をつかされ、家を追い出されてしまいます。

その後神谷の生活は荒れ果てていきます。それでもしばらく神谷と付き合い続ける徳永。

ところがある時、そんな神谷の姿に我慢しきれず厳しい言葉を浴びせてしまう事件が起こります。その言葉に神谷はどう反応するのか、そして徳永との関係を断ってしまうのか。

火花では、そんな二人の出会いから10年後までが描かれます。

 

『火花』のamazon口コミ、感想を解説

Amazonのレビューでは星5つ中の3.7。6割以上の人が星4つ以上を付けています。

「憧れの人に対する葛藤や嫉妬、失望等が克明に描かれていた」「常に『笑い』を創造し、発信し続ける。その滑稽にも見える健気な芸人人生を又吉氏の鮮やかな文体によって表されている」

等と高く評価する人も多く、このような点が芥川賞受賞にもつながったのではないかと思われます。

また、そのような文学作品としての評価だけではなく「理屈抜きで泣いたし、笑った」「エンタメとして楽しめた」という人も多くいました。

その一方で、「理屈っぽい」「期待はずれ」という人も見られました。

お笑い芸人が書いた小説ということで、「笑い」だけを期待したり、逆に「プロの小説家でもないのに話題性で芥川賞に選ばれたのではないか」と軽く見た人もいたのかもしれません。

しかし、「どうせ芸人が書いた小説だから、という考えは偏見だった」という人も。

単なるハッピーエンドでもお涙頂戴でもないこの小説。

お笑い芸人の余技などとあなどれないだけの深さがあります。

人間関係というものの複雑さと、夢に挑み続ける人々が放つ一瞬の鮮やかな「火花」が描かれているこの物語。その深さと迫力を味わってもらえたらと思います。

 

『火花』のオーディオブック、電子書籍、映画化、漫画版有無

  • オーディオブック:Audiobook版あり、Audible版あり
  • 電子書籍:Kindle版あり
  • 映画化:あり
  • 漫画版:あり

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