書評

書評『横道世之介』のあらすじ、要約

『横道世之介』はこんなひとにおすすめ

やさしい気分にひたりたい人へ

「横道世之介」は、笑ってそして心を打たれるさわやかな青春小説です。
語り口がやさしく読みやすいため、だれでも手に取って楽しめる作品といえるでしょう。

主人公の世之介は、地方から上京して色々と迷いながら大学生活を始めます。

上京の際、なんとなく不安になって実家にあった重たい大理石の時計をカバンに入れてきてしまうような、世之介の頼りなさをほほえましく思うかもしれません。

また、世之介と周囲の人々とのやりとりにもユーモアを感じます。

マイペースなガールフレンドにふりまわされたり、同級生夫婦の子供が生まれるという場面で手伝おうとするも右往左往して全く役に立てなかったり、謎多き美女に翻弄されたりするのです。

世之介は、このような色々なタイプの人々と出会い、もまれる中でだんだんと成長していくのです。

また、一人暮らしやバイトなど新しい経験に緊張しつつ、わくわくしながら取り組みます。同じような経験をした人であれば、少々頼りない大学1年生を描いたこの物語に共感してもらえるでしょう。

加えて、この物語にはところどころに、友人たちや家族が世之介について語る約20年後のシーンが差しはさまれています。

そこから大人になった世之介の切ない事実がわかってきます。

しかし、最終的には、すっきりとした温かい印象を残すこの作品、面白さと同時に心をゆさぶられる物語を味わいたい人におすすめです。

 

『横道世之介』を読んだらどんな気分になる

いろいろな笑顔になれる

とにかくたくさんの笑顔があふれる作品です。
クスっと笑ったり、ほほえましい気持ちになったり、お腹を抱えて笑ったり。

ただそれだけではありません。
読み終わるのが惜しく世之介と別れがたいような気がしました。

そう感じたのは、世之介に独特の魅力があるからだと思います。

世之介の友人や家族も、彼を思い出すとなんとなく楽しい気分になったり「世之介と会って良かった」と言います。

イケメンでもヒーローでもなく、すぐに舞い上がったりオロオロしたりする、そんな世之介をなぜみんな好きになるのでしょうか。

 

人の良い部分を再認識できる

世之介の一番の魅力は「隙のあるところ」ではないかと思います。
都会での生活はどうしても「甘く見られてはいけない」と自分にカラを作ってしまいがちです。

しかし、世之介は、人との間に隔てがありません。

誘われると知らない人でも平気でついてったり、けんか相手といつの間にか仲良くなって助けてもらったり。

素直で人を疑わず、そのまま受け止める姿が人を安心させるのかもしれません。

また、世之介には目の前の人が困っていると自然に助けようとする人の好さがあります。

そのおせっかいが彼の運命を思わぬ方向に引っ張っていきます。それが切なくもあるのですが、「世之介らしい」と納得のできる結末でした。

善良であることの尊さや、人との間に必要以上にカラを作らないことの大切さをしみじみと感じさせる作品です。

 

『横道世之介』の奥付き情報

  • 出版社:毎日新聞社(文庫版は文春文庫)
  • 著者:吉田修一 1968年生まれ。2002年「パーク・ライフ」で芥川賞受賞。本作で柴田錬三郎賞、本屋大賞第3位となる。
  • 出版年:2009年

 

『横道世之介』あらすじ、要約

世之介の上京

物語は世之介が故郷の長崎から上京、大学に入学するところから始まります。

大学は都心にあるのですが、都会の華やかさとはかけ離れた電車で1時間ほどの郊外にある安アパートに住むようになります。

入学式で早速世之介は大失敗。遅刻して式場で迷い、壇上で話をしている人の頭上にあるドアから顔を出してしまいます。

そして、式でたまたま隣に座った倉持という男や、同じクラスの阿久津唯という女の子と知り合いになります。

そしてこの二人に巻き込まれてしまい、気が付くと3人で特に興味もないサンバのサークルに入ってしまうことになるのです。

それなのに、倉持と唯は同棲を始め、唯の妊娠を機に大学をやめてしまいます。

 

東京の面白さと怖さ

サンバの魅力がわからずなかなか身が入らない世之介ですが、サークルでの交流はそこそこ。先輩にルームサービスを客室に運ぶホテルでのバイトを紹介してもらいます。

世之介は景気のいい客にチップとして一万円札をもらって、嬉しさのあまり廊下を走りまわったりします。

一方、自宅アパートの隣室前には、借金の取り立てで目つきの悪い男たちが現れ、隣人のドアを蹴ったり大声を出す姿を見て怖い思いをします。
また、友人の紹介で初めて会った女性千春にいきなり「彼と別れるために弟のふりをして付き添ってほしい」と頼まれ、めちゃくちゃな出会いにもかかわらずその美しさにメロメロになったりもします。

東京という街の面白さと怖さを実感する世之介でした。

 

恋人祥子との出会い

世之介は同級生の加藤と共に自動車教習所に通うようになり、そこで与謝野祥子という女性と知り合います。

祥子の友人睦美が加藤を好きになり、祥子と睦美、加藤、世之介でダブルデートをしたのがきっかけでした。

千春の美しさが頭から離れない世之介ですが、お金持ちのお嬢様でマイペースな祥子に巻き込まれ、一緒に海で遊んだりするようになります。
一方、加藤は女の子に興味がないといって睦美を振ってしまいます。

クーラーがあるからという理由で加藤の部屋にいりびたっていた世之介は、加藤に「自分は男にしか興味がない」と打ち明けられます。
自分の秘密を伝えることに緊張していた加藤ですが、世之介の驚きもしない反応に脱力することになります。

やがて祥子は夏休みの帰省の際、長崎にある世之介の実家についてきて両親と仲良くなってしまいます。

その際、海辺に上がってきたボートピープル(小型船で自国から逃げ出してきた人々)に出くわし、二人で助けようとした事件などを経て、世之介は祥子と少しずつ心を近づけていくようになるのです。

20年後の世之介

このようなドタバタとした世之介の1年間が描かれる合間に、加藤、千春、祥子らが約20年後に世之介のことを思い出すシーンが現れます。

世之介はそのころすでに40歳で、とある職業についています。

そして、彼の身に思いがけない事件が起こったことがわかるのでした。

世之介の1年はどのように終わるのか。
そして大人になった世之介を待ち受けている運命とは何か。友人や家族の心温まる回想によって明らかになっていきます。

 

『横道世之介』amazon口コミ。感想を解説

Amazonカスタマーレビューでは星5つ中の4.3。60パーセント近くの人が星5つをつけています。

楽しく心温まる物語として、好感を持った方が多かったようです。

「世之介いいやつ!」といった感想や、「大学時代のことを思い出して戻りたくなった」「昔の友人のことを思い出した」と、自分の人生や周囲の人と重ねながら読んだレビューも見られました。

一方、軽い感じを与える物語や世之介のような「普通の人」が主人公になっていることに、物足りなさを感じた人もいたようです。

「これまでの作品とは違う」「吉田修一に慣れた人には物足りない」といったレビューが見られました。

確かに、著者の吉田修一氏は、これまで「悪人」「怒り」といった、人間の暗い部分を深く描いた作品を手掛けてきました。

そのような重厚な作品を期待した人は意外に感じたかもしれません。

しかし、吉田氏の深い人間観察と、それをありありと描写する表現力はこの作品でも健在です。

「物凄く伝わってくる文章です。どの場面も鮮明に簡単に情景が浮かびます。」というレビューも見られました。

「普通」の人生に現れる輝きを楽しく伝えてくれるこの作品。笑いながらも、人生の奥深さについて考えさせられる、そんな物語に共感する人も多いのではないでしょうか。

 

『横道世之介』のオーディオブック、電子書籍、映画化、漫画版など

  • オーディオブック…audible版あり
  • 電子書籍…Kindle版あり
  • 映画化…あり 主演:高良健吾(こうらけんご)、吉高由里子(よしたか ゆりこ)
  • 漫画版…なし

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